そして千年の恋がはじまる…(蒼の軌跡)

管理人:菜蒼の日々。

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怪談『雀ヶ宿』

人里離れた竹林に、その宿はあるという。
小柄な女主人に招じ入れられたら最後、
二度と宿から出る事は叶わない。
そんな噂が風に乗り都へ届く頃、
一人の若者が竹林で道を見失った。
放った鷹から逸れた兎を追ったのだが
いつの間にか随分奥まで入り込んでしまったようだ。
愛馬のみを供として歩を進めると、
緑一色の視界に、鮮やかな朱塗りの瓦が見えた。
異国風の建物には『雀ヶ宿』の扁額。
せめて少しばかりの水を、と
戸口から中へ声をかけてみる。

「…これはこれは。ようお出でなされた。」
出迎えたのは、身の丈が若者の半分ほどの女。
竹林の宿らしく竹柄の装束は、
しかし何処かしら異国めいた物であった。
艶やかな朱唇を愛想よく撓め、奥の居室へと誘う。
「ほぅ。兎を追うて、の。」
若者の話に耳を傾けつつ、女は廊下の向こうに
宴席の支度をするよう呼びかけた。
此方へ向き直り、云う。
「したが手負いの兎など、そう遠くへは逃げまいて。
あるいは其方の鷹が既に見つけておるやもしれぬ。
しばし此方で、ゆるりと過ごされるがよい。」

程なくして食事の支度がととのったらしく
若者は隣の居室へ移るよう女に告げられる。
其処にはなんとも立派な酒席が設けられていた。
ふと疑問に思った事が口をついて出た。
「…人を雇うておるか、と? 何故そのような?
…ほほ。確かにこれだけの支度、一人二人では出来ぬであろう。
そのくせ人が出入りしている気配がしなかった、とな?」
くつくつ、と女は喉で笑う。
「随分とこの宿も安く見られたものよなぁ。」
其処いらの茶店とは格が違うのだと、言外に匂わせる。
きちんと躾られた仲居がいるのであろうと、
若者が合点したところで盃を勧められた。
白銀のそれになみなみと注がれる。
あまり酒は強くないのだと慌てれば、
またぞろ朱唇がゆるりと撓む。
「陽のあるうちから酔うもまた一興。」
さあさあ、と半ば強いられるままに盃を呷ると
身体の隅々にまで、雷にでも打たれたかのような痺れが走った。
酒の名を聞けば「名など無い。」と云う。
しかしこれまでに味わった事の無い美酒である。
このような刻限から酒宴など…という逡巡は、
重ねる盃の合間に消えていった。

はたと気付けば、女がいない。
ほろ酔いを通り過ぎた若者は、風にあたろうと廊下に出る。
…人の声が聞こえた。 女の声だ。
さては姿の見えなかった仲居に何ぞ指図でもしているのかと
声のする方へ千鳥足で進む。
女は、裏木戸を出た辺りで誰かと話しているようだった。
そっと耳を欹てていると、聞こえてきたのは竹林を渡る風の音と…

…ほんに久しいのぅ…この宿に人間の来るは…
…もう少しじゃ…いま暫し待たれよ…
…ほ。お主は腕が欲しいか。馬手か、弓手か。どちらでも良いぞ…
…貴公は臓腑か…
…吾か?…吾はあの眸が欲しい…
…あの眸を浮かべて飲む酒は、さぞ美味かろう…

酔いが、一瞬にして立ち消えた。
心とは裏腹に笑い続ける膝を叱咤しつつ
若者は表の戸口へと急ぐ。
其処には、中へ通される時に繋いだ愛馬がいる筈だ。
長くもない廊下の途中で、足元がふらついて転んでしまう。
肘をしたたかに打ちつけて、大きな音をたててしまった。
しまった、と思った瞬間、後方で女の声がする。
「何処へ行きゃるのか、客人。」
逃しはせぬぞ、と、段々に声が近付いてくる。
思わず振り向けば、あの鮮やか過ぎる口唇が目に飛び込んで。
這うようにして進み戸口に出ると、
果たして愛馬は其処に繋がれたままであった。
鞍に跨り手綱を捌こうとした刹那、女が眼前にいる事に気付いた。
何時の間に自分を追い越したのか…。
よく見れば、女の足は宙に浮いている。
己が身の丈の高さ程で女はゆらりと宙に浮いているのだ。
まるで羽でも生えているかのように。
「吾らには、其方が必要なのじゃ。」
六十年に一度のこの時節に、この宿を訪うた其方が悪い、
そう口走ると、女は馬の轡に手をかけようとした。
はっと我に返った若者が、鞭をあてる。
愛馬が鋭く嘶いて、前脚で空を掻いた。
馬のその所作に何故か女は非道く慄いて
羽をもがれた小鳥のように地に伏す。
その隙に若者は愛馬を駆り立て
ただ只管に、振り返る事もせず、ひた走った。


竹林を抜け、人里に辿り着いた若者は
己が竹林へ迷い込んでから既に10日ほど経った事を知った。

その村の翁が云うには、竹は六十年に一度、花を咲かせるという。
おそらく今年がその六十年目であり、
花開く為に常より多い滋養を必要としていたのであろう、と。
ただその滋養という物が鶏糞などではなく……

人間であっただけの事…。


05年07月19日作成。

管理人は、とある人形を所持しておりまして。
同系統の人形オーナーさん達と
某所に集ってみちゃったりする訳です。
管理人が持参した人形は、小さいのに小悪魔チックな顔でして
思わずこんな小話が出来上がりました。
若者のモデルは、Tさん宅の人形です。
これがまたトンデモナクカッコいいのでした。
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テーマ:詩・唄・詞 - ジャンル:小説・文学

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